国広正人「穴らしきものに入る」☆感想

日本ホラー小説大賞の短編賞を受賞した本作。
表紙からもわかるとおり、本格ホラーではなくナンセンスお馬鹿ホラー短編集である。

穴らしきものに入る (角川ホラー文庫)

穴らしきものに入る (角川ホラー文庫)

表題作の「穴らしいものに入る」は、自分の体は穴をくぐれるということに気付いた主人公がさまざまな穴に挑戦していくというお話だ。すごい下手なあらすじに見えるかもしれないが、ホントにそうなのでそこに対する突っ込みは作者にどうぞ。
とても軽い読み口で、何も考えずに気軽に読める。

読み終わって頭に浮かんだのは「世にも奇妙な物語」だった。そのうちホントに「世にも奇妙な物語」で映像化されるかもしれない。しかし「世にも奇妙な物語」のストーリージャンル分けでは明らかにホラーには入らないと思われる。
日本ホラー小説大賞なのにこれは・・・いかがなものか?
その他の短編もどれも同じような奇妙な話で、「これは怖い・・・」と感じる短編が一編もなかった。残念である。
自分は表題作よりも死んだ祖父を火葬したら骨が全部だった・・・どうしようという、「金骨」のほうが好きだった。

・・・ホラーってなんだっけ。そんなことが頭をよぎる短編集だった。

南条範夫「駿河城御前試合」☆感想

残酷時代劇漫画「シグルイ」の原作として知ってる人が多いかと思われる本作。(自分も漫画からです。)
といっても連作短編集なのでシグルイの原作として使われた「無明逆流れ」は39ページしかなく、漫画に出てくるほどキャラの掘り下げもされていないし、なんか虎眼先生のキャラ違うし、そこには用心。

駿河城御前試合 (徳間文庫)

駿河城御前試合 (徳間文庫)

ただ「無明逆流れ」以外にも面白い戦いがあるのでぜひすべての試合を読んでほしい。
自分が一番気に入ったのは「被虐の受け太刀」。まあ無礼を承知で改題させて頂くと「ドM剣士、悩む。でも感じちゃう」といったところだろうか。
駿河大納言・徳川忠長の催した、真剣を持ってしての御前試合という血なまぐさい舞台で、さまざまな因縁を秘めた剣士たちがそれぞれの奥義を繰り出し鮮烈に散っていく。
男として、女として、剣士として……それぞれの生き様のいきつく先は!?

そして……「シグルイ」の主人公であるあの男の未来とは…

シグルイ 1 (チャンピオンREDコミックス)

シグルイ 1 (チャンピオンREDコミックス)

大槻ケンヂ「ロッキン・ホース・バレリーナ」☆感想

十八歳で夏でバカだった!!
パンクバンド「野原」のメンバー、耕助、ザジ、バンはマネージャーの得山に連れられライブツアーへ出かける。
耕助は全国を巡る中で、自分たちのファンになった女の子を食いまくる予定だったが、東京を目指す途中に謎のゴスロリ少女・七曲町子と出会ってしまう。
無理やり車に乗り込んでくる町子。いったいなぜそんなことをするのかと聞くと、「ビジュアル系バンドのボーカルに抱かれに行く」と答えるのだった。
耕助のトラウマ、町子の秘密、ライブツアーの行方、そして新たな恋!?・・・一気読み確定の青春バンド小説!!

ロッキン・ホース・バレリーナ (角川文庫)

ロッキン・ホース・バレリーナ (角川文庫)


というわけで以上があらすじなのだが、とにかくみなさんに読んでもらいたい。
自分の読んだ大槻ケンヂの小説の中ではぶっちぎりで一番面白かった。バンドメンバーも、町子も、その他のキャラもみんなキャラが立っていた。
その中でも一番自分が好きなのは謎のゴスロリ少女七曲町子だ。この娘っこは現代ならどこにでもいるようなメンヘラ少女である!手首を切り、これみよがしに精神薬を飲み、好きなバンドの追っかけをし、そのメンバーに抱かれるということを繰り返す・・・正直、最初はどうしようもねえ女だなと思ったが読み進めていくとどんどん町子が可愛く見えてくるのだ。
結果としてバンドにとっても町子の存在はプラスに働くし、町子もバンド「野原」と出会ったことで変わることができた。
これは迷える若者たち(一部おっさん達)の成長物語だったのだ!!

バンドにあこがれる若者も、そうでない人も読んでくれ!損はさせねえ!

新堂冬樹「君が悪い」☆感想

吐きたいほど愛してる。 (新潮文庫)

吐きたいほど愛してる。 (新潮文庫)

とってもストレートな題名のこの小説。内容もこの一言を軸に繰り広げられる残酷サスペンス★

主人公である中学教諭竹林はとにかく何でもかんでも人のせいにする性質の男。この男が次々と人様を手に掛けていく話なんですが……
はずみで最初の殺人を犯した時も、「こいつが悪い」。
次の殺人も「君が悪い」。
そのまた次も「お前が悪い」……

とにかく全部「君が悪い」!!!

君が悪い (光文社文庫)

君が悪い (光文社文庫)

とにかくそれだけで進行していく。竹林が殺して、相手のせいにするためにいろいろ理屈を並べて、都合が悪くなってまた殺して……それのループ。延々とそれなので緊張感もない。
ライトな感じで新しい読者を引き付けようとしているのか?と感じられる部分もあるが、そのくせ死体を解体する描写とかはしっかり描かれているので苦手な人はそれだけでアウトだ。
それに主人公の性質が、僕の中での新堂冬樹・ザ・べストである『吐きたいほど愛してる』の中の一編、「半蔵の黒子」の主人公、毒島半蔵と似通っているがキャラクターの持つパワー、魅力の面で竹林は半蔵の足元にも及ばない。
というわけで、これを読むくらいなら『吐きたいほど愛してる』を読もう。